旅は続きます。
途中からの方はこちら↓
第1話:CONTAX T2とNew York
第2話:T2との旅、その2
(前回のつづき。)
近くで見るそのカップルは真冬だというのに、日焼けサロン通いだろうか、かなりガングロだった。
僕はやや不機嫌ながらも、外面はいいので、日本語が通じるかもわからない(笑)謎のカップルにとてもビジネスライクに聞いた。
僕:「どうかされましたか?」
彼:「遅くに本当にすみません。」
僕:「はい?」
彼:「今夜一緒に食事をしてもらえませんか?」
僕:「えっ??せっかくの旅行なのに彼女とお二人で過ごされたらどうですか?」
彼:「いや、お願いします。マジでお願いしますっ。」
僕:「・・・わかりました。僕も食事に出るから、じゃ30分後にロビーで会いましょう。」
なんだかわからないけど、かなり真剣な面持ちだったので、僕はなぜか断れずにそう言った。
僕はこの旅の最初の夜を知らない若いカップルにつき合う事になった。
少し早めにロビーに降りると既にあのカップルがニコニコしながら待っていた。
ヨーロッパ屈指のリゾート地とはいえ、真冬のニースの街はどんな雰囲気かなぁ?と興味津々だったが、ホテルの前の大きな広場は眩いばかりのクリスマスイルミネーションでおとぎの国のようだった。
ホテルを出て、歩き出した僕は名前も知らないカップルにまず自己紹介をした。そして「どうして僕の部屋へ来たの?」と聞いた。
彼:「オレら、つき合いだしたばかりで、実は初めての海外旅行で、勢いで行く事にしちゃったんすよ。けど、ほんとは出発前から不安で不安で。てか、こんな知らない国で夜遅くに二人っきりにされたら、オレらどうしていいか。言葉もわからないじゃないっすかぁ。んで、成田で見かけた時から、なんか困ったらこの人に相談しようとなんか勝手に決めていたんすよ。部屋も何号室に入るか二人で見ていたんです。」
てか、ほんと勝手に決めるなよ。相談するなら旅行会社にして欲しいけど。部屋まで確認して、ほとんどストーカーだよ。
結局、僕は二十歳そこそこのカップルと冬の素敵なニースの街を歩いた。
僕:「ほら、この広場とても綺麗だから二人の写真撮ってあげるよ、カメラ貸して。」と言った。
すると、
彼:「やっぱ、カメラとか普通持って来た方がよかったっすよね?」
彼女:「ほらあ、だからカメラ持って行こうっていたじゃんっ。ばかぁ。」
初めて彼女の声を聞いた。
しょうがない、僕はT2でニースの街に降り立った異星人カップルの写真をスローシンクロで何枚か撮った。これが、かなり良く撮れた。
美しい背景とはうらはらに、カップルは二人揃って場違いなピースサインをしていた。
「少し歩くと地中海の海岸に出るはずだよ。せっかく来たんだから、行ってみる?」となぜか僕は新婚旅行の添乗員みたいになっていた。僕も初めての街なのに。
月明かりの夜の海岸でようやく安心してきた二人は、波打ち際で裸足になってはしゃいでいた。そのとき、二人の視界に僕はいなかった。僕は早くビールが飲みたかった。そして指先で触れた南仏の地中海の水は真冬なのに暖かかった。
僕らはいくつかのレストランを物色した。時間も遅かったので、多くがもうラストオーダーの時間を過ぎていた。
僕は二人に「明日から僕らはイタリアに入るので、せっかくだからフレンチにしておく?」とあらかじめ聞いたが、
彼:「あっ、てか、オレら、よくわからないんで、食えれば何でもいいっすよ。」
がっかり。
せっかくのフランスなのに結局、僕らは清潔そうなイタリアンレストランに入ることにした。僕はビールが飲みたくてそれ以上歩きたくなかったから。
食事をしながら僕は知らない遠くの街から来た知らないカップルの、一緒に暮らしだしたなれそめ、この旅に行く事になる迄の経緯、お互い相手のどこがムカつくか、など多くの話を聞く事になる。詳細は忘れたが、印象が悪かったこの若者達を僕はすこし「なんか、かわいいなぁ」と思い始めていた。性格上、頼りにされるのもイヤではなかった。
ただ、ホテルに戻り部屋の小さな窓からあの素敵な広場を見ながら、僕のこの旅をあのカップルの添乗員で終わらせるのはゴメンだと、本気で思った。そして成田で見たカルロス・ゴーンの側近が引いていたいくつもの見た事も無いルイ・ヴィトンの大きなスーツケースはきっと高いんだろうな、と思った。
次の朝早く、僕らはモナコを通り、高速道路で国境を越え、フィレンツェに向かった。
つづく。
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