2009年12月 Archive

ある仕事の話

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2年くらい前かな。
行きつけのBarでたまたま隣り合わせていたある大人なご夫妻と知り合った。気さくに話してくれたが裕福なことは見た目ですぐわかった。いつも高級なシャンパンを飲んでいた。そしてルックスだけでなく会話からもある種の品と自信、そしてこだわりを感じたのを覚えている。

後に偶然僕と同じマンションに住んでいることがわかり、その後も何度かBarやマンションのエレベータで顔を合わせる機会があった。20年以上前に創業して調剤薬局を展開する企業の社長夫妻だと知った。とても紳士的に接してくれていた。そしてその会社のインテリアやサプライなどを僕の会社から調達してくれることになった。なにが気に入られたのかはわからないけど。

そして僕がWebやデザイン関連の仕事もしていることを知るとWebやCI計画もお願いしたいと依頼があった。いままで何社かにお願いしたが納得がいかないとの話だった。仕事が詰まっていた僕は「私なんかでいいんですか?それにお時間をいただきますが。」とやや断り気味に言った。本当に僕の何を気に入ってくれたかはわからないけど彼は「急いでません。待ちますよ。」と言ってきた。断る訳にはいかなくなったけど取り急ぎCIのみやることになった。結局随分お待たせしてしまったが、僕の考えをお話しし、何案か提出した。結局採用いただき「こういうのが欲しかったんです。完璧です。」と言ってもらえた。

Web制作はいま、なかなか時間が取れないし、乗り気ではなかった。それでも会うたびに依頼されたが「いずれ落ち着いたら。」とごまかした。その時に僕は行政主導で数十社の民間企業が参加するやや大きめのサイトの基本構想やコンセプト、構築業者の選定という若干やっかいな仕事を抱えていたし。

お二人はいつもタバコを吸う僕に、「もうタバコやめた方がいいですよ。」と言ってくれた。最初は「近くで吸われると煙くてうまい料理が台無しだ。」と言っていると思っていた。もちろんそれもあるだろう。そしていつしか同席するときは僕はタバコを吸わなくなった。
喫煙する会社の女性スタッフと飲んでいたときに、同席したときは夫妻はよりいっそう彼女に禁煙を勧めた。医療に携わる方から見たらもちろんそう思うだろうが、あかの他人に対してなのにその説得はそうとう熱心だった。

しばらくお会いすることも無かった期間があった。依頼された同社の関連会社のCIデザインもしばらく手つかずだった中、突然、僕の携帯電話に連絡があった。

「関連会社のCIはまだいいです。本気でそろそろでWebお願いできませんか?金額はいくらかかってもいいですから。」と。

低姿勢ながら強い意志を持って伝えてきた。断るすべも無かった。このご時世、贅沢な話だけど、自分の時間は限られてるし、けど外注に出すのようなことはしたくなかったし。

聞けば調剤薬局では、優秀な薬剤師の確保に非常に苦労するという。その為にも企業イメージをどう表現するかは大事だと言っていた。

僕は競合や同業他社のWebをリサーチしだした。そしてがく然とした。
人材確保が大事なのはわかるが、ひどいものだった。

薬剤師確保の為とはいえ、大学のサークルじゃあるまいし、「楽しいからおいでよ。うちで働けばこんなにメリットいっぱい、こんな素敵な職場で働きませんか?今すぐエントリー!」とばかりに、福利厚生で使えるリゾート施設、忘年会のビンゴゲームの高級な景品リスト、楽しい職場を表現したいのだとは思うけど、キラキラしたイルミネーションの中でワイングラスを傾ける女子薬剤師、海外旅行でのピースサインのスナップ・・・。

専門分野で地域医療や健康に貢献するとかそんなイメージは全くなかった。

多くのサイトが完全に「患者不在」だった。

幸い僕は心も身体も超健康だけど、もちろん身近にも病気と闘っている人は何人もいる。

不慮の事故のけがで病院に通っている人。毎日何回も服用するたびに「いつまで飲むんだろう。」と落胆しながら薬に頼るしか無い人もいる。高額な注射で狭まる視野を保つ人。自分の大切な臓器に不安を抱えながら副作用に耐えて家事も仕事もがんばって、傷つきながらも明るく振る舞っている人もいる。余命を宣告されてすでにその期間を過ぎている人。そして若くして寿命を終えた人もいる。
たかが風邪で僕が医者に行っても、薬局で薬剤師の説明にすがるように聞き入って不安を伝えているお年寄りを見る。

職場はもちろん楽しい方がいい。仕事は必ずつらいことがあるしね、明るい方がいい。僕も自分の会社もそれが第一と思って育ててきた。けど、それもお客さんに喜んでもらう為だし、社会に必要な会社である為にスタッフに頑張ってもらいたいからだとうのがある。結果的にスタッフはこの会社に入って良かったとみんな言ってくれる。
働きやすさ=らくちん、ではないよね。誰も苦労はしたくないけど、つらさを知らないと人に優しくできないし。一緒に苦労するから共感できるし達成感もあるんじゃないかな。

薬剤師という仕事はそうとう頭が良くないとなれないだろうし、裕福でないと教育も受けられないかもしれない。もちろん待遇もいいと思う。しかし、楽しければいいのだろうか?

僕は人の命に関わるもので商売をしたことがないからよくわからないけど。
仕事も生活ももちろん自分の為だけど、誰かの為にとか、誰かのお陰って思うからみんながんばれたりするんじゃないだろか?

僕は「カッコいいのを作ってください。」と言っていたリッチなクライアントに電話をした。

「いろいろ競合他社のサイトを見ましたが、違和感を感じます。仕事とはいえ、あのような患者不在のサイトは作りたくありません。どうお考えですか?」と。

その経営者は自分の意見を話してくれた。僕と同じ意見だった。少し安心した。

僕はもう一度その会社の資料や原稿を読み直した。

そこには
「常に基本を忘れず、患者様本意の医療を。」
「薬のプロとして地域の皆様の健康的な生活を医薬分業からサポートします。」
「現状に満足することなく、改善、向上し皆さまに信頼していただける薬局であるように努力します。」
「We offer the bright future with health.」(健康がある輝かしい未来を提供します。)
そう書いてあった。

多くの他社サイトにはそういうメッセージは感じられなかった。

僕は提案した。

「派手さや目新しさを目指すのではなくて、まずは顧客である患者さん向けに当たり前のことがちゃんと書いてあって情報発信ができて、企業の理念が伝わるクリーンでシンプルなサイトにしましょう。それが差別化になると思うし、それに共感するスタッフが集まればいい。もちろんサイトのセンスは良くないといけないけど。」と。

彼は共感してくれた。

しばらくしてきっと、一見、目新しくない普通のサイトが出来るかもしれない。けど、それでいいと思っている。でも投資していただくなかでガッカリはさせないと思っている。

そしてその経営者はやや大きい規模の新しい店の店舗設計をお願いできないかと言ってきた。諸事情でそれはさすがにお断りした。

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