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T2との旅、最終回

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本気ですべてが中途半端な記事で終わっているこのBlog、みなさんお元気でしょうか?
突然ですが旅エッセイ、最終回です。別エッセイは半分書き終わってますが、公開することは無いでしょう。


途中からの方はこちら↓
第1話:CONTAX T2とNew York
第2話:T2との旅、その2
第3話:T2との旅、その3
第4話:T2との旅、その4
第5話:T2との旅、その5


(前回のつづき。)

素敵な添乗員から夕食の誘いを受けたローマ最終日。もちろんとてもいい気分で市内に向かう地下鉄に乗っていた。

クリスマスにうかれた街の広場には新鮮な野菜を売るマーケット、移動遊園地のメリーゴーランド、大道芸人のパフォーマンス。まるで絵本の中の世界だった。

色とりどり、カラフルなチューイングガムやお菓子を売る屋台の近くで、長身なイタリア人の若者が「Hey! Nakata!」と例のごとく笑顔で近づいてきて、右手に持った毛糸を持ってみろと勧めてくる。
華やかな雰囲気の中、フレンドリーにされるとついついノッてしまいそうだけど、危険。もちろん無視。
後で同じツアーの若者が引っかかったことを聞いた。その毛糸をつまむと、そのイタリア人の着ているヴィヴィッドな色のセーターがどんどんほどけていく。そしてすぐ仲間が数人集まってきて「なんてことをするんだ!弁償したらどうだ!」とばかりに取り囲んで、何ユーロかを巻き上げるという、気弱な日本人観光客向けの良くある話。

昼下がりのローマの街とビールとピッツァを楽しんで早めにホテルに戻り、冬で汗もかいていないのになぜかシャワーを浴びて彼女との待ち合わせの時間を待った。帰国のための荷物を整理しながら、残り少ない服のなかから彼女のおすすめのレストランに着ていく服を迷っていた。悪い時間ではなかった。

「6時にロビーで。」という彼女の言葉を思い出しながら、もちろん少し早めにロビーに向かった。上層階からゆっくり降りてくるエレベーターがもどかしかった。

ロビーに彼女の姿はまだ無かった。しばらく待っていた。何度も時計に目がいった。

同じツアーに参加していた親子が偶然エレベーターから下りてきた。少し会話を交わした。
母親は「息子が街のマーケットで嫌な思いをして、すっかり落ち込んでいて・・・」。
例の毛糸男の話だった。僕は上の空で聞きながら眼では彼女を捜していた。

ふと嫌な予感がした。

おしゃべりなそのマダムは息子の話が終わると・・・。

「あら、ご一緒で良かった。添乗員さんに誘われたんですよね?夕食。」

予感は的中した。
寝ぼけてとった電話で勘違いだったのか?思わず笑ってしまった。

しばらくすると彼女がエレベータから笑顔で降りてきて、小走りで僕に近づきこう言った。

「結局、お食事11人になったんです。そのうち2人が今ホテルに向かってるみたいなので私は後から行きます。お手数ですがフロントでタクシーを呼んで皆さんを先に連れて行っていただけますか?人数が確定しなかったので予約していませんが、よろしくお願いします。これが店の住所です。」

小さなメモを受け取ると、ぞくぞくと見た顔が僕らのもとに集まってきた。あのカップルはいなかった。

平静を装った僕は「わかりました。11人ですね。」と笑顔で言った。多分引きつっていた。
フロントでタクシーを3台呼んでもらって、彼女の渡してくれたレストランの住所のメモをポケットに無造作に突っ込んだのは覚えている。

タクシーに分乗しレストランにつくと幸い席は空いていそうだった。人数を伝えなんとか大きなテーブルを確保し、しかたなく皆の注文をまとめてオーダーしたあたりで、彼女がやってきた。

「助かりました。頼りにしてしまって。」

今回こそは本当に添乗員になっていた。まったく。海外が初めての例のカップルならまだしもプロの添乗員までも頼りにしないでよ。

大きなガッカリを胸に、けどちゃんとがんばってしまう自分が滑稽だった。

行きの成田から気になっていたどう見ても女装している男性は、そのレストランでも「女性用トイレはどこですか?」と低い声で僕に聞いてきた。「知るかよ。僕だってローマ初めてだよ!」と言いたかったが、僕は大人だった。

それでもたくさんワインを飲んで、楽しく話をしてローマ最後の夜は更けていった。どうやってホテルの部屋に帰ったかを覚えていない。

翌朝早く僕らはホテルをチェックアウトして、バスでレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港に向かい、パリのシャルル・ド・ゴールへ向けて飛び立った。

パリの乗り継ぎでまた問題が発生した。数時間前、ド・ゴール空港でアメリカ行きの航空機に搭乗しようとした中東系の男の靴のかかとからプラスチック爆弾が見つかった、と。世界中で大きく報道されていたらしい。
むろん搭乗手続きに時間がかかり、検査では僕も靴を脱がされ、厳密に靴のかかとをチェックされた。昨年、パリ公演の帰り便で革靴だった僕はやはり靴を脱がされたが、その当時はそんなことがなければそこまでしなかったと思う。

成田へはクリスマスイブのフライトだった。ベルトサインが消えるとエールフランスの客室乗務員が全員サンタクロースのコスチュームでお菓子を配って回った。粋な演出だった。

その便は比較的すいていた。そして例のカップルと座席が隣だった。最後の夜の食事はやはり誘われたが、部屋で引きこもっていたらしい。僕らは「写真を送るよ。」と住所を交換した。

実は今はやしている僕のヒゲはこの旅の間、全く剃らなかったことから始まった。例のカップルの彼女が機内で僕に「ヒゲ伸びましたね。」と。そして自分の若い彼に「ぜんぜん剃らなかったのにヒゲ伸びてないね。」と言った。その彼は、なにか子供扱いされたような感じで、その彼女に返す言葉をつまらせていた。無性にその二人がかわいかった。


僕は帰国して今まで通りの日常に戻った。現像されてきた百数十枚のT2の写真のなかから例のカップルの写真をチョイスして、教わった住所に郵送した。何日かしてカップルの彼女から絵はがきが届いた。大きく丸い文字だった。

「素敵な写真をありがとうございます。おかげで初めての海外旅行をなんとか楽しめました。こちらの写真は比べ物にならないくらい写りが悪いのでお送りできません。やっぱりカメラが違うんですね。」と。

カメラも違うけど、腕も違うでしょ、とまだ未熟な僕はそう思いながら、彼らが住む知らない土地のきれいな絵はがきがうれしかった。確か日光の絵はがきだった。いまはどうしているだろうか・・・。

添乗員の彼女は僕の街から車で30分くらいのところに住んでいて、携帯電話の番号も知っていたが、もちろん一度も連絡することは無かった。彼女が教えてくれたフィレンツェの路地の小さな両替屋のレートの良さと手数料の安さには感謝している。


忘れられない旅になった。

僕のカメラと知らない人と初めての街。

ありがとう。

おしまい。Fin.

コメント(3)

素敵な旅でしたね~。

期待に胸が膨らむ展開の旅エッセイでした。

帰国後の添乗員さん、気になりませんでしたか~!?

Bellissimo! ごちそうさまでした!とっても素敵なエッセイでした。
「別エッセイ」は本当に公開しないのでしょうか?もったいないです~~。。。

kouichiさん。

長らくのご愛読ありがとうございました。kouichiさんのほうが今は素敵なカメラライフで旅を楽しんでますよね。素敵な写真また楽しみにしています。いま思うと登場するカップルはkouichiさんと同郷のようです。

うめさん。
Thank you for commenting from far foreign country.
A wonderful woman comes to Japan when autumn comes. I am looking forward very much.
See you!

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このページは、monoが2009年8月22日 03:05に書いたブログ記事です。

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